2018年5月27日日曜日

サマー・インターン (その2 実践編)

前回に引き続き、実践編として、サマー・インターンでの経験や学びについてまとめておきたい。

Asia Real Estate Trekが提供してくれたサマー・インターンへの門戸を開き、実際に働いてみるために、早速行動を開始した。

実は、外資系金融(GS、Morgan Stanley、JP Morgan etc)やコンサル系(ボスコン、マッキンゼー)は、早速一年目の秋に開催されるボストン・キャリアフォーラムでインターンが決定されることが多い。
これは海外からのサマー・インターンが卒業後の採用を決めるうえでの登竜門となるからだ。

僕の場合は、まだ不動産を通じてのヴィジョンを広げたい時期だったし、様々なオプションを見ておきたかったのでボストン・キャリアフォーラムは見学する程度に留めた。ただし気づきも多く、いわゆるReal Estate Private Equityについては少数精鋭で中途採用が多いことから新卒に重きをおいているボスキャリで有用な情報を得るにはいたらなかったのだ。
逆に自分の意志を固めるうえでもよい機会だった。ネームバリューによらない仕事の仕方をしたいということ。即戦力として責任ある立場でのコミットメントがしたいこと。そして自身の行っている建築と不動産活動を加速してくれる仕事であること。


話は戻り、早速Trek中にネットワーキングできた各社Managing Directorと、面談やランチのセッティングをさせていただき、結果的にMorgan Stanley Capital KKとAngelo Gordon & Co LLC、Phoenix Property Investorsからサマー・インターンのオファーをいただいた。

実際にはMorgan Stanley Capital KK (MSC)にて約10週間、Angelo Gordon(AG)にて2日間のインターンを行った。

各企業の特徴は(その1応募編)で記載した通り。
言えるのは各3社のMDは皆、リーマンショックを経験し、なおかつ今でも組織をリードしているため、非常に人格者であり、そして大胆さと慎重さを併せ持っていながら気前がよい、ということ。またそれぞれに投資に対しての得意な戦略があるというのも面白い。



応募についてのTipsは下記
・一年目で習得したProforma構築スキルを表すマテリアルを先方と共有する

・Investment Memoを作成した資料を共有する
(特にRick PeiserのFinal Projectがよいだろう)

・ランチはチームとの相性を図るもの。態度をはっきりと決めてゆくと同時に自然体で

・Aqiuisition、Fund Raising、Asset Managementなどのチームの役割を頭に入れる

・インタビューは英語と日本語両方なので、どちらでも答えられるように

・コールの場合は立って電話するのがおすすめ。ポジティブな気持ちが伝わる



Morgan Stanley Capital KK(MSC) 編

具体的に関わったディールの名前は挙げられないので、概要のみまとめておく
ちなみにディールの最中はコードネームで呼ばれている。
MSCの特徴はAquisitionチームとAsset Managementチームが別れていてそれぞれ10人と15人程度、またバックオフィスから構成される。



各ディールの流れは下記(REPEほぼ共通)
Underwriting→ICOMM(投資委員会プレゼン)→Acquisition→Renovation or Conversion→Lease out→Property Management→Disposition



・某ホテルのリノベーションとブランド誘致
40年以上経つかなり古びたホテルを買い取り、耐震改修を行いつつ、全面階層を行い、海外ホテルブランドを誘致するディール。
Total Capitalizationは約60MM USD。当然ながら建築系バックグラウンドを活かすべきプロジェクトだったため、充実感を持って担当させていただいた。

・某ショッピングセンター
近郊都市の駅前に位置するショッピングセンターのアセットマネジメント段階。改装も同時に行いつつ、いかに有力なテナントを目標賃料で誘致するかが鍵。
Total Capitalizationは約80MM USD。アセットマネジメントチームの中で動かせていただきつつ、リーシングと管理がいかにディールの中で大切か、そして機会創出についても実は「床」の動きを追いかけることで、発見できるものがあることを学ぶ。

・某社宅、オフィス、賃貸住宅ポートフォリオ
都心部および核都市における混成型のポートフォリオ構築のためのUnderwriting。こちらは初めての本格的なAcquisitionに向けたUnderwritingを担当させていただき、異常にエキサイティングな投資委員会も経験させていただいた。各物件をポートフォリオに入れるか否か、どういったリスクをとるのか、どのアップサイドの可能性を見るのかなど、様々な視点を学ぶ。

・Final Presentation
こちらは、各インターン生が最終日に経過の成果を発表するうえでも重要となるプレゼンテーション。僕の場合は以前より興味があり、自身でも実践していたModern Disruptorとの協働の可能性についてまとめた。いわゆるAirbnbやWeworkを保有不動産で展開した場合、ということだ。集大成としてInvestment Memo形式でまとめることができたため、Morgan Stanleyとの共同研究のような形でいい成果が出た。ただし、実際にMSCのファンドに組み込むとなるとVolatilityが高かったり法的グレーゾーンが多いこと、またCapital Marketではまだこういった投資商材が確立されていないため、まだ実践に組み込むこと難しい判断だった。


Angelo Gordon & Co. LLC(AG) 編

こちらも具体的に関わったディールの名前は挙げられないので、概要のみまとめておく
こちらは短期間での経験となったため、今までのディールで実際につくりあげた物件を東京近郊に限ってツアーガイドしていただきながら、また少し建築的視点からのAdd Valueについて関わらせていただいた。また、ボストンに戻ってからもメールベースでのヘルプを行った。
AGのチームの特徴はなんと言っても少数精鋭。そしてアウトソース先と上手に連携しながら、Add Value思考のディールを得意とする。各ディール・オフィサーはMy Baby Projectという表現にみられるように、全ての面倒を自身の最良により見る。


プロパティ・ツアーでは代表的なディールである3物件を回った。どれもAGの投資フィロソフィーを示す非常に面白い事例だ。

・都内某商業ビル
プランテックとともに外装も一新し、そして道路付けを少し変更してのテナント面積確保というウルトラCを行った物件を始めに見せていただいた。
こちらは、以前の仕事場にも近かったこともあり、じつは知っていたビルだったが、このリノベーションに、こういったファンドのメカニズムが働いていたことを今となっては理解できるのが有り難い。

・都内Class A超高層オフィス
こちらは某デベロッパーによる有名なビルでリーマンショック前後の取引により、様々なファンドの手に渡った。こちらのエントランス部を大々的にリノベーションし、さらに飲食店を誘致しやすいように動線なども変更。
最終的には非常にいいPerfromanceのディールだったとのこと。

・都内繁華街に位置する小規模商業ビル
こちらも外観内装ともにかなりのリノベーションを行っており、実際に新築のような様相まで呈している。テナントの総入れ替えを行いながら目標賃料まで持っていったとのこと。

・建築的Add Value
また、現在検討中との再開発用地について、総合設計によるValue Upが見込めるかどうかの検討を担当させていただいた。こちらは実際に再開発となると出口がデベロッパー等になることから、このPerspectiveがAcqisition段階で見通すことができれば、相当のアップサイドシナリオとなることになる。ここはゼネコン設計部出身者としての腕の見せどころである。

最終的にはどちらの組織も、チームのほぼ全員と実際のディール、ランチやディナーを通じてじっくりとお話させていただい、それぞれのカルチャーやディール・オフィサーのあり方についての違いなども理解でき、これ以上にない有意義なインターンとなった。

インターン前にRickやApeseche、そしてHBSのNoriのクラスを取っていて本当によかった。そこで習得した技術や考え方が、インターンの入り口からビシバシと役立っていた。これら不動産デザイン学科での学びと、現実世界のディールの一端を担えたことで、見えるものがよりクリアになった。
この機会を与えてくれた各社のMDは僕にとってはもはやMentorであり、今後も大切にしたい繋がりである。心から感謝を申し上げる。






2018年5月26日土曜日

サマー・インターン (その1 応募編:Asia Real Estate Trek)

米国での大学院留学を、より充実したものにするためには周知の通り、自分のVisionに合ったサマー・インターン先の確保と、そこでの実践経験習得がものを言う。

もちろん、ハーバード・デザインスクールにおいても例外ではなく、まさしくサマー・インターンでの経験とネットワークが卒業後の進路も決めることになる。

デザインスクールの多様に富んだ学科から、世界中のトップデザイン組織、企業や官庁へサマー・インターンへと出かける学生が、ひと夏を終えて一段と成長してくるのだ。

不動産デザイン学科の場合は特に、設計や施行、デベロッパー側からファイナンス側へとキャリアチェンジを試みる学生が多いため、サマー・インターンへの熱の入れ方も真剣そのものとなり、時には非常に厳しいコンペに晒されることになる。

僕の場合も例外ではないが、今回の留学でのサマー・インターンについては、その前提としてクラスメートの盟友、Samと主導した、ハーバード伝統のAsia Real Estate Trekのおかげで有り難くも、非常に充実度の高いサマー・インターンを経験することができた。

各方面への配慮から、次なるステップがはっきりするまでは、インターンの内容などについて、公にできない情報が多かったため、遅ればせながらではあるが、下記にAsia Real Estate Trekとともにまとめておきたい。


Asia Real Estate Trek (サマー・インターンへの登竜門)

このTrekは僕とSamがPresidentを務めたハーバード不動産デザイン学科のAsia Real Estate Associationが主催する、不動産系、投資系企業の訪問と知見の拡大を目指した新興アジア都市を中心とするTrekだ。
もちろん、トップ企業への訪問が多いことから、このTrek自体がサマー・インターン先とのネットワーキングと応募に大いに役立つことは想像に固くないだろう。

米国で不動産を専攻する場合は、参加を強くおすすめしたい。
実際に僕の場合は3つの企業からオファーをいただき、また他に5名、すぐにインターン先を決定した。

また、他にもNew York TrekやWest Coast Trekなどがあり、こちらもGoogleやWework、Airbnb、Related Companyなどの錚々たる企業を回れるため
おすすめである。留意点としてはVISAの問題から米国内企業へのインターンは需要と供給がマッチせず、米国外学生には少々不利なところがあるということだ。

Trekのメンバー構成は、総勢約20名程度を枠とし、ハーバード大学(デザインスクール+HBS)、MIT、コロンビア大学、コーネル大学などの学生から選抜されたメンバーが集まる。

ちなみに、毎年50名程度の応募があるため、レジュメや志望動機の本気具合、そしてチームへの貢献度などをもとに結構厳し目のスクリーニングがある。











僕が久しぶりの不動産学科における日本人だったということもあり、今回のAsia Real Estate Trekは、もちろんTokyo Partを組み込んだ。

東京の都市開発、マーケット、企業を知ってもらいたいという想いもあったし、僕自身、東京に不動産開発をテーマとして、どういうプレイヤーがいるのか、業界のランドスケープを見渡すためにも、是非とも行っておきたかった。

各都市で訪れた企業は下記の通り、デベロッパーから不動産投資会社(いわゆるReal Estate Private Equity)、ブローカーやコンサル等バラエティに富んで豪華だ。

各都市3日程度で移動も含めて、3都市合計で10日間の濃密な旅程だ。


香港 Part

・Blackstone
・Gaw Capital
・Phoenix Property Investors
・Swire Group
・Angelo Gordon Hong Kong
・CBRE Hong Kong
・KKR
・AEW Capital Management
・Hong Kong Land
・Oak Tree Capital

もちろん、各都市ごとにその都市をリードする出身者が、夜な夜な威信をかけたMixerを開催する。同じ企業を違う都市で廻っている場合も、違う部署を訪問しており、また都市によって全くマーケットが違うため、得られるものが被ることはない。














香港を皮切りに、連日の企業訪問とMixerを経験しながら、チームが出来上がってゆく。各企業からプレゼンテーションを行っていただき、それに対してのディスカッションやQ&Aが繰り広げられる。もちろん学生は皆前のめりなため、時間が過ぎても質問とネットワーキングのために充実した時間となる。

各企業の名前は聞いたことはあっても、実際にそのマーケットで何をしているのか、ビジネスドメインは何なのか、ディールや作品はどういったものがあるのか等、生の(First Hand)な話が聞ける機会はそうそうない。

香港パートの特徴はなんといっても、その国際性にあるだろう。
特に、Real Estate Private Equityは元気がよい。業務自体は英語で、広東語も使えると有利であることは間違いないが、近年のマーケットの中心が東京から香港に移動しつつあるため、国際性がますます高まっている。

トレック参加者のJob Huntingにおける一番人気都市は紛れもなく香港だ。国際性や言語的バリア、法人税や企業誘致力といった点では東京は3歩ほど劣っているというのが正直なところである。

MixerはSamの手引きにより、旨いHong Kong料理と、そして独特の世界観のあるClubだ。Work Hard, Play Hardである。


上海 Part

・Value Retail
・JLL Shanghai
・Shui On Land
・Fuson Group
・SOHO China
・Vanke China
・Tishman Speyer























SOHO Chinaが手がける複合開発からPudongエリアのSuper Tall Towerを望む。

まさに魔都、上海。中国市場の場合は不動産投資会社やReal Estate Private Equityにくらべて、過去10年に渡って勢力をつけてきたPre Saleを行うデベロッパーが圧倒的な存在感を放つ。

開発物件も案内していただきながらのプレゼンテーションは圧巻であり、スターアーキテクトを起用した様々な開発が目白押しである。上海のMixerもHong Kongに負けじと激ウマの上海料理でもてなしてくれる。




東京 Part

・Goldman Sachs Asset Management
・Goldman Sachs Realty Management 
・Morgan Stanley Capital KK
・Angelo Gordon Tokyo
・Mori Building + Mori Foundation
・Mitsui Fudosan
・Mitubishi Jisho
・CBRE Japan
・Nikken Sekkei






東京パートは今回が初の試みであったが、幸いにも様々な方面の方々にネットワークをご紹介いただき、錚々たる企業の方々とのMeet Upが実現した。

3都市目となる東京についた頃には、チームビルィングもしっかりとできており、各人がそれぞれのバックグラウンドと持ち味でチームをリードし、また企業訪問時の質問の純度も上がっていった。

業界全体のランドスケープをしっかりと掴みつつある頃合いであり、各プレイヤーがどのような事業形態をとっているのか、強みや弱みなども含めて一応の理解がついてきたからこそ、企業訪問の意味合いも一層高まっていた。

東京は訪問者にとっては開発し尽くされている印象だそうで、また三井不動産や三菱地所、森ビルといったデベロッパーの事業規模は、世界にも類をみないものである。

特に森ビルのプレゼンテーションは圧巻の一言で、そして開発手法からエリアマネジメントに至るまで、考えつくされた長期的ビジョンに基づく開発には一同感心をしていた。また中国出身者には上海環球中心(Shanghai World Financial Center)を森ビルがリスクを取りながらも創り上げたことで、知るものも多かった。


Goldman Sachs(AM、ASSG、Realty)やMorgan Stanley Capital KK(MSREFFで有名)、Angelo GordonといったいわゆるReal Estate Private Equity(REPE)はManaging Directorの方々から直々にプレゼンテーションもいただき、非常に有益な時間となった。各会社ごとに全くことなるカルチャーが面白い。


これは各企業のファンドが取るリスクとリターン、得意とする投資スタイルの違いによるものだ。

いわゆる外資系不動産ファンドは、業界も狭いため、様々な人材の流れ方や裏話も聞けた。







GSはASSG(Asia Special Situation Group)とAM(Asset Managemtn)/Realtyでは、そもそも投資資金の拠出元が異なるため、投資スタンスが異なる。

ASSGはGSの内部資金を使っているため、リターンが出るものであれば、さまざまなものに独自で判断をし、積極的に投資をする。Distressから、星野リゾートとの合弁事業など有名なものから、太陽光など様々。口外できない内容が多いとのこと。

AM/RealtyはLimited Partnerから資金を募ってファンドを構成するいわゆるPrivate Equity。最近有名なものはMoxy Hotel TokyoとKyotoへの投資だろうか。また、こちらでも太陽光はほぼ1/3のAsset Under Managementを占めるという。その他はClass Aオフィスなど、コアからコアプラスのいわゆるミドルリスク・ミドルリターンの投資が主流。




Morgan Stanley Capital KKはいわゆるMSREFFとしてリーマン・ショック前にかなりの隆盛を極めた、ハイリスク・ハイリターン型のOpportunisticファンドの代表例であり、その頃はSWFCや日本中のANAインターコンチネンタルへの投資を手がけていた。
現在もリーマン・ショックからの痛手を埋めつつV字回復し、業界をリードしている。近年ではPrime Asiaと呼ばれる長期ミドルリターン型のコアファンドも設立している。

MSREFF卒業生には他のファンドで活躍する人も多数いる。Green OakやGSのASSG、Blackstone Japanなどさまざまだ。情報とネットワークが命のREPEでは非常に強みがある。



ユニークなのは、香港Partで初めて知ったAngelo GordonというPrivate Equityで、GSやMorgan Stanleyと同じく米国発祥。もともとはDistress投資に強みがり、Distressの担保として不動産を獲得してゆくうちに急成長をしたファンドだ。

特にAdd Value投資が得意で、香港での事例や東京の近年のトラックレコードを実際に見せてもらい、知っているビルが結構あった。

オフィスからホテルへのコンバージョンを行ったり、歴史的建造物と融合させた商業施設を開発したりと、建築側からの発想によりAdd Valueをし、運用してゆくのが面白い。チームも少数精鋭で、ディレクターの言葉を借りれば、彼らのビジネスはPeople Businessであり、自分のディールはAcqisitionからUnderwriting、設計者選定やアセットマネジメント、そしてDispositionまで全て面倒をみるため、彼らからするとMy Baby Projectなのである。

日本では、Plantec AssociatesやGensler、日建設計や竹中工務店といったデザイン性と経済合理性を両立する建築事務所との協働が多く、またテナントもLVMHを入れたりと面白い。近年では青山ベルコモンズの再開発を取りまとめたことでも知られる。
また、数少ないGround Up Project、いわゆる開発案件も手がけるPEのうちの一つだ。東京代表はHarvard Collage出身者でありながら、京都大学院で建築を学んでいたというバックグラウンド。


Mixerは我が家での手巻き寿司パーティや、築地訪問、そして友人のレストラン(フレンチ焼き鳥)で舌鼓、もちろんカラオケなど、とにかく日本の食文化の豊かさに浸ってもらった。


このTrekがきっかけとなり、結果的にMorgan Stanley Capital KK、Angelo Gordon Tokyo、Phoenix Property Investors Japanからサマー・インターンのオファーをいただくことになったが、次回では応募やインタビュー、そのインターン内容について触れたいと思う。



2018年5月19日土曜日

2017 Fall Semester, 3rd Semester 授業紹介

そろそろ留学生活も大詰めを迎えているので、振り返りながら、学びや気付きをまとめておきたい。

まずは2017, Fall Semester(3nd Semester)で僕が取っていた授業を紹介しつつ、そのフィードバック等をまとめておく。

3rd Semesterは最終論文でもありプロジェクトでもあるOpen Projectが始まる時期なので、GSD,HBS,HKSでの今までの学びやサマーインターンでのスキル習得を活かして、Open Projectの構想を練り上げることを行いつつ、Field Studyを中心とした。シアトル、ボストンでのFirst Handな経験をもとに米国基準での都市計画、不動産開発、設計、施行についても具体的に知見を広げた。


具体的に取った授業は下記。


1) Field Studies in Real Estate, Urban Planning, and Urban Design, case in Seattle by Richard Peiser 

一学期の不動産ファイナンスに続き、名物教授であるRick Peiserが主導するField Study型の授業。この授業は不動産デザイン学科の中でものめり込める非常にお気に入りの授業のひとつ。

毎年、Rickのパワフルな人脈により、様々な都市をフィールド・スタディの場所として選定し、その都市の都市計画局や地元デベロッパー、建築家、不動産アナリストそして市民団体をアドバイザーに迎えて、最終的に選定都市への開発提案を行う。

Field Studyクラスの学生構成はコンパクトかつ精鋭を揃えてのクラス構成となる。

不動産デザイン学科の学生はもちろん、Urban Planning学科、Urban Design学科、そしてMark、つまり建築学科からの学生からの混成チームが結成される。

各回に、開発計画を提案するにあたり、不動産ファイナンス側だったり都市計画論側からの短い課題が出される。

そして、学期中期に目玉である選定都市訪問、そしてField Studyと地元ステークホルダーとの対話が行われる。もちろん学期末には提案書を練り上げ、最終プレゼンを地元ステークホルダーと教授陣を前に行う。

昨年のField Study地はマイアミだったため、応募者殺到のうえ、くじ引きによる抽選となったが、今年もAmazon本社やFacebook、Google、ボーイングが本社を構えてテック系雇用の震源地となりつつあるシアトル。
なんとか抽選に繰り上がり合格し、実地調査ができることになった。


シアトル市街地をGas Works Parkから望む。以前はガス生成所があった場所を都市公園へと再生




最終プレゼンを行った、我らがTeam Gooseの案(都市計画系と不動産系の学生5人の米国、インド、モナコ、日本からなる混成チーム)

操車場とアーミー用地が残るInterbayというシアトル市街北部のエリアにPromenadeを軸とした様々な活動がCrossする「場」を提案。
クラス内とシアトル側の審査委員から見事一位に選ばれた。





シアトルは現在、Amazon社が本社を構えて、その規模をさまざまな企業買収とともに急拡大している。現在シアトルでの社員はなんと4万人!

まさにAmazon Villageが出来上がっており、地元にとってもAmazonの雇用がもつインパクトが凄まじい。

画面の黄色いハイライトがAmazonによる開発。

ほぼ市街地の大規模開発の70%はアマゾンによるものだ。

また、その他にも青ハイライトはFacebook、赤ハイライトはGoogleの施設群をしめす。

また、InterbayエリアにはExpedia本社も新設予定。








このField StudyではAmazon本社の開発、設計を手掛けたNBBJの設計部長から直々に案内を承けた。また、実際にはAmazon自体も不動産開発を行っているため、GSD出身者を多数採用している。



また、現地シアトルのワシントン・ユニバーシティでも教鞭をとりULIのコアメンバーであり都市計画家のPike氏を始めとして、不動産アナリスト、市民団体、アーキテクトデベロッパーの方々が勢揃いしてのシアトルの都市計画と市況についての濃密なレクチャーシリーズとディスカッションが行われる。













もちろん濃密なField Tourの合間にも、シアトルの建築群を巡る。
特にOMAによるSeattle Public Libraryは必見。多様につながる空間と、独特の外皮により居場所がいくらでも選べる。少し小高い丘の高層ビル群の切れ目に位置するのだが、視認性が高いわりに都市に公共空間を内外に与えている。

また、スターバックスの創業者ハワード・シュルツがレイ・オールデンバーグからヒントを得て作ったとされるサードプレイスの発祥地、つまりスタバ一号店は是非とも訪れてみたい場所だったので、念願が叶った。













Field Studyの中ではSeattleの市街地の他に、Bellevueも廻った。シアトル市街地からおよそ車で20分程度の対岸に位置するこの街、なんとほぼ街区すべてがKemperというデベロッパーによって40年にわたって開発されて来ており、今はハイエンドな商業とオフィス、高層住宅からなる地域となっている。

下記は実際に40年間のBellevueの発展を手がけてきたKemper会長その人。自ら模型を示しながら、そして施設を歩き回りながら発せられる言葉には熱が入っていた。日本でいう森稔さんのような方だ。
印象的だったのは、昨今にAmazonなどのE commerce台頭により商業施設の必要性を危ぶむ声がある中で、それでもやはり商業がカタリストとして街には必要だという信念。彼の開発の中心には常によく考案された駐車場つきの大規模商業がある。

また、テナントやワーカーともコーヒー片手に気さくに話しかけて、足で稼ぐ姿は大いに見習うものがある。















ますますテック系人材が流入し、そして自然にも恵まれたシアトル・メトロエリアは今後も発展する見込みが高く、オフィス系不動産開発が今後も期待される。同時に交通やアメニティなどのインフラがまだまだ未整備でもあるため、様々なプロジェクトが目白押しだ。

これらのField Studyを経て、米国の各都市における固有性や開発機会の底力を感じた。では日本では西と東、あるいは北と南ではこのように力強く、個性を保ちながら発展を遂げている都市があるだろうか?住み分けとも取れるこのような米国各都市の傾向からヒントを得た。

このField Trip後に約3週間をかけて、各学科からの学生の持ち味を活かしつつ、シアトル市インターベイエリアを統括する市政府局へのレポートとプレゼンを練り上げる。

Field Tripを終えたチームは一丸となって、各々の専門性を活かしつつ、いい案を練り上げた。我々のチームは操車場を撤去し、プロムナードを導入しつつ、ウォーターフロントと内陸地を分断するマグノリアブリッジを付け替えるという案を示した。
もちろん、Land Developer / Building Developerとしての事業性も担保しつつだ。

日本では大阪や、中国地方各都市(岡山、広島)、福岡といった西側の地域に非常に有効な開発と成りうるだろう。

レポートには他のチームからの素晴らしい提案も含まれているため、時期をみて、また公開したい。






Field Tripも含まれたいわゆるGSD名物のスタジオスタイルに近い授業であったため、非常に長くなってしまったが、求められる貢献度とプロダクションの物量が多いため、覚悟を持って望む必要がある。だが、もちろん得られるFirst Hand ExperienceとNetwork、Knowledge、として戦友との絆は計り知れない。

気づきとしては下記
・米国の各都市はそれぞれ、不動産開発の求心力が異な、独自の発展を遂げている
・企業誘致の重要性と相乗効果のあるアトラクション
・美味いもの、うまいクラフトビールがある都市には人が集まる
・ワシントンUとの連携によりテック系の優秀な人材と企業誘致のマッチング
・都市計画系の人材との連携は視点を増やせる。特に米国ベースの学生
・Rickとは僕の東京、スリランカでの仕事の話も通じて、生涯の関係が構築できた

以上


2) Global Leadership in Real Estate and Design by Eugene Kohn and Bing Wang

こちらもField Studyにつづき、スタジオスタイルに近いプロジェクトベースの人気授業。泣く子も黙るKPFの創業者の一人でもあり、現役のEugene Kohn氏に直接師事する機会を得られる貴重な授業。
Bing Wang教授は不動産ファイナンスの側面から学生を促してゆき、もちろんGeneは得意の複合開発から実績をもとに示唆を与えてゆく。

レクチャー形式は一学期のForm and Financeに似てはいるものの、クラスは実際のトリップと敷地調査を得て、実際にデベロッパーがKPFと開発する敷地に他の解を出すというもの。
2つの対象敷地があり、1つはバルセロナでBingによる指導、そしてもう一つはボストン・シーポートエリアでのKPFデザインによる開発地区であり、もちろんGeneとKPFのチーフアーキテクトによる指導。

Shanghai World Financial Centerや六本木ヒルズ、NYハドソンヤードプロジェクトでの具体的なエピソードやでデベロッパーとのやり取りなど、興味が尽きないが、彼の直截でありながらユーモアたっぷりな話っぷりにどんどん引き込まれてゆく。

そしてKPF創業期の話を語ってくれた。Gene自体はデベロッパーとの協働や組織のリードが非常に上手い人物であり、デザインでは圧倒的にPedersonが上手いと自身も認めているようだ。

面白いのが、六本木ヒルズの最上階に美術館を置くアイデアに当初は反対していたという事実。結果は明らかだ


この距離で自身のスケッチをもとに、的確なアドバイスをくれる。
最高の時間だ。

Gene、KPFからのフィードバックは下記。

・スタートは出来るかぎりシンプルに考える。とくに複合開発を考える上では用途を交錯する導線に注意
・アメニティと公共空間は重要、ただし事業性を阻害しない範囲で
・六本木ヒルズの自身の体験をプレゼンしたが、好評をいただいた。





もちろん不動産事業性を担保するためのProformaを同時に検証しつつ、ミクストユースを計画してゆくのだが、変数が多いために、最終的な案にたどり着くためには、チーム内のかなりの議論と迷わないVisionを必要とする。
今回のチームは不動産デザイン学科の一年生と二年生、そしてランドスケープ学科の学生による。


現地をKPFのチーフアーキテクトと施工会社が案内してくれる。ゼネコン出身者としては血が騒ぐ笑












下記は成果物の一部。

















最終プレゼンでは各チームからのデザイン的質の高い成果物が相次ぐ。これぞGSDだろう。このクラスは数年に一度のペースでBing Wang教授が書籍として取りまとめて出版もしている。今回は書籍には含まれないかもしれないが、様々な気づきがあった。

・複合開発という変数やステークホルダーが多い開発形式ではVISIONに常に立ち返ること
・多様なパブリックスペースの創出
・Value Mappingというテナント、コンド価格の尺度づけ手法
・数字はあくまで開発の下支えにすぎず、やはり最後はコンセプトとプロダクション
・チーム各自のスキルセットやバックグラウンドの多様性は大切

以上



3) Innovation in Project Delivery by Mark Johnson

この授業では、米国基準による建設プロジェクトの発注方法と、昨今この業界で起こっているDisruptiveなプレイヤーの同行を置いながら、いかに建設プロセスを刷新できるかに調整する。

実は隠れた名授業であり、僕自身としては日本のゼネコンの方式に慣れきってしまっているため、米国基準、国際基準での発注方式の基礎を身につけることに大いに役立った。

実際、Markは様々な建設コンサルを経験し、さらにHarvard大学のCaptal Managementをリードしていた筋金入りのコンストラクション・マネージャー。Capital Managerとは大学の保有する建物をどう改修し、あるいはキャンパスを広げてゆくかを大学の資金をつかってマネジメントを行う。
近作には、ハーバードのファインアーツ・ミュージアムがある。
旧美術館とコルビジェによるアートセンターを融合しつつ、増築した建物で、Markに雇われた建築家はレンゾ・ピアノ。


施行を担当したゼネコンの担当者がMarkの招きにより、レクチャーを行ってくれた。

















Markからクラスの前半では、各発注方式についての基礎的なレクチャーが行われる。すなわち、各方式のプロコンを中心に、どの手法がどの不動産開発事業に向いているか、などについて解き明かす。


4つのオーソドックスな発注方式は下記
・Design Bid Build
・Construction Management at Risk
・Design Build
・Integrated Project Delivery

それに加えて、昨今話題のモジュール方式や3Dプリンターを使った方式、いわゆるDisruptorによる話題にも中盤では触れる。




















ゲストスピーカーで特に自身の活動の延長線上にあるロールモデルといえる、DDGグループ創業者のPeterのプレゼンは掻き立てられるものがある。いわゆるアーキテクト・デベロッパーでありNYではFiancial Crisis後に創業し、今や超高層の開発に着手するまでに成長している不動産開発+デザインを行うグループでありNYを中心に活動している。


彼らのデザイン的手法としてはNYの既存ビルの素材感や装飾をトレースしつつ、その表現方法をモディファイする。
たとえ新しい開発であったとしても開口部の面積は既存のアールデコ調建物と合わせているため、タウンスケープに馴染みやすい。

アーキテクト・デベロッパーという職種があることをA+Uなどでも取り上げてよいと思う。





授業後半では、これらのインプットを元に、自身により建設方法や発注方式、あるいは周辺のサービスについてのイノベーションを考案する。最終成果物としてはビジネスプラン含む論文にまとめるというものである。

自身は建設産業での人手不足を解消しつつ、職人のモチベーションやスキルアップを促すアプリケーションサービスを考案した。
Uberにヒントを得た。つまり建設プロジェクトにおけるWork Forceや下請け業者の最適配置とマッチングサービスだ。こちらはDistinctionという評価を得られた。

実際に日本に限らず、今後新興するアジアの都市において労働市場の最適化においては必要なツールであろう。実現させるにはいろいろなリソースが必要ではあるが、近い将来に実現させたいプロジェクトのひとつとなった。

ある意味ではスマホでつながったゼネコンをつくるようなものだ。

ぶっちゃけ、Markは将来の自身の開発プロジェクトで是非、力になって欲しい笑
不動産デザイン学科のみならずGSDにおいて建設の方式全容を知るうえでは、必修にしてもいいくらいおすすめの授業。

気づきは下記
・米国基準の4方式の習得は必須
・Disruptorの活用がどれだけ進むか、この5年ほどで見えてきそう
・小規模プロジェクトにおいてもコンサルの活用やリスクコントロールを厳格に行うべき
・労働市場は人口動態と完全に連携しているため、今後の全世界的規模の都市化では課題
・MarkにCMを担当してほしい

以上。




4) Open Project 1

不動産デザイン学科での学びの集大成ともいえるプロジェクト型Thesisだ。こちらは最終学期に取りまとめるための、準備体操やインプット期間のようなものなので、あらためて最終学期の成果とともに記事にしたい。

下記に最終的に決定したタイトルとカバーページを記載する。
今回は以上!