2016年10月19日水曜日

ショッピング・ウィーク&今学期履修科目決定

今学期(Fall semester)最初の3週間ほどは、どのカレッジでどの授業をとるかを学生が聴講し、見定める期間で通称ショッピング・ウィークと呼ばれている。当然のことながら、ポストプロフェッショナル・コースの我々はより実務に近い授業を選択する傾向にあるし、この手の授業はデザインスクールはもとよりビジネス・スクール、ケネディ政策スクールに相当数が設置されている。

実際に人気教授の授業はショッピング・ウィーク中は様々なカレッジから優秀な学生が「試聴」しにくるし、その間にネットワーキングが行われることもしばしばである。

大きく分けてデザインスクールの授業はスタジオ系とレクチャー系に分類される。スタジオ系はこれから建築設計やランドスケープデザイン、都市デザインを学ぶ学生が各教授の指導するスタジオという単位のもと、実際の作品製作を行う形式である。
ハーバードデザインスクールの校舎であるGund Hallのひな壇状スタジオ教室は有名で、見渡すかぎり、そこかしこでクリエイションが行われている。レクチャー系は、各専門領域の教授による講義形式、もしくはケーススタディやフィールドワーク形式によるもので、特にケーススタディ形式はHBS発祥のハーバード流教育を象徴するレクチャー形式である。
Gund Hallのひな壇状スタジオ教室 クリエイションや議論が昼夜問わずに行われる



自分のFall Semester履修授業は下記と方向性が決まった。
それぞれに概要と、ショッピングウィークを通しての自分なりの到達目標を記しておきたい。
(自己の整理のためにも長文になることをご容赦いただきたい。)

1) Real Estate Finance and Development by Richard Peiser
不動産ファイナンスと不動産開発の基礎理論を習得する授業
不動産デザイン学科の前学科長であり、名物教授であるRick Peiserによる授業。必修の授業ではあるものの、分野横断的に意識の高い学生があつまり、クラスのキャパを越える学生が殺到している。ただし、不動産開発の主軸となるファイナンス理論を扱っているため、宿題(Assignment)の量が半端ではなく、文字通り半端な気持ちではついてゆけない授業でもある。
6 functions of $1という基本概念からスタートし、最終的には不動産開発に関わるものには必須の不動産評価手法や資金調達理論、プロジェクトのキャッシュ・フローを習得する。また毎週紹介されるケーススタディは、どれも実際のプロジェクトの中で経営者が不動産事業の判断をどう行うかを鮮やかに描いており、その中で習得したスキルと想像力をもとにどう判断するかを学生に問いかける。
ケースを読み込むだけでももちろん相当な時間を要するが、得られるものは大きい。また、追って紹介するがStudy with Legendという、HBSで30年以上に渡り名物教授と名を轟かせた教授とのケーススタディ授業も含まれる。

自分の到達目標としては、国際水準で通じる不動産ファイナンス理論の基礎を身につけること。また不動産開発に関わるTerminology、つまり専門用語を英語で使いこなせるようになること。またケーススタディを通して、デベとしての直感や判断基準を養うことにある。
Urban Land Instituteでも活躍するRick Peiserの語り口調は非常に明快で、また彼のULIから出版されている書籍も非常に有益な内容であるため、機会があれば翻訳にチャレンジもしてみたい。
以上。

名物教授、Rick Peiser 今日の1ドル、将来の1ドルが利回りとともにどう振る舞うかを6通りに紹介


2)Form + Finance by Bing Wang & David Gamble
建築のフォーム、不動産ファイナンススキームがお互いにどう作用(interaction)するかを探求する授業。
現学科長であるBing Wangによる授業である。こちらも、Bing Wangの明快な説明と導きにより、人気を博している授業である。デザインバックグラウンドの学生には不動産ファイナンスの知識を与え、不動産開発をよりクリエイティブにするための力を与える。逆に不動産や金融バックグランドの学生には、不動産開発においてクリエイティビティがどう付加価値(Added Value)を生み出せるかといった視点を与える。
都市デザインのプロであるDavid Gambleも加わり、Charrettes(シュレットと発音)と呼ばれる授業内での即席設計課題が出される。面白いのは、3人程度でこの課題に取り組むのだが常にファイナンス系とデザイン系が混ざったチームで取り組む。つまりシュレット内で常にデザインとファイナンスの議論がなされるわけである。その後、一斉に各グループの即席課題を貼り出し講評会が両視点から行われる。
宿題は毎週ユニークなものが出され、デザイン、ファイナンス両方のセンスを鍛え上げるための腕試し的なトレーニングが行われる。最終的には培った両センスを元にファイナル・プロジェクトといって1つの不動産事業を構想する。

自分の到達目標としては、デザイン、ファイナンス両面からのディスカッション能力の基礎を身につけること。不動産に付加価値を与えるフォームの幅を成功事例をもとに広げておくこと。可能であればボストン周辺で実行しうる開発や自分の好みである開発手法を探っておく。以上。

Charrettsの例 湖畔の再開発を即席で作り上げる


3)Real Estate and City Making in China by Bing Wang
こちらもBing Wangによる抽選形式のリサーチ型授業。抽選形式(Lottery)とは、授業のキャパが方針により決められれているため、ショッピングウィーク中に履修希望者の中で抽選が行われ、当たった学生が優先的に受けられる授業形式。
この授業は12人程度とかなりコンパクトな授業であるものの、米国、アジア双方の学生からの人気が高い。自分は中国瀋陽で仕事をしていた関係から、中国を始めとする新興都市での不動産投資と都市づくりにどう貢献できるかを研究したいことから履修を決定。リサーチベースで各学生が毎授業で小一時間のプレゼンテーションを行い、ディスカッションをBingがリードしながら行う。
ゴールは25ページ程度のファイナルペーパーを自分のテーマに沿って仕上げる。毎週リーディングを消化したうえでのディスカッション参加が求められるが、とくにプレゼンターとなる学生は統計や人口動態、ケーススタディを組み込んだ作り込まれたプレゼンを用意し披露する。プレゼンの道筋やリサーチマテリアルをBing氏もしっかりとサポートしてくれるので、学術領域に進む大学院生には特にオススメである。

同じく到達目標としては、リサーチベースの研究手法を米国水準でマスターする。中国を中心とした新興国での不動産投資に関わるチャレンジとリスク、成功要因をケーススタディを引用しつつ明らかにする。(そっくりそのまま自分のファイナルペーパーとなりそう)  英語でのディベート力を身につける。以上。


4)Cities by Design by Peter Rowe and Alex Krieger
アーバンデザイン学科とランドスケープ学科学生向けの名物授業であり、米国の都市デザイン分野では第一人者のピーター・ロウとアレックス・クリーガーの授業である。
各都市がどのように歴史の中でその様相を変えながら、その都市デザインが変遷してきたかを研究する授業。今学期の研究対象都市はボストン、イスタンブール、ベルリン、バルセロナ、上海そしてクエートである。いづれも今まさにホットな都市であり、イスタンブールは東京と2020年のオリンピック招致を最後まで戦った盟友といったところである。
(東京が入っていないことに、日本のリードタイムがほぼ切れかけていることを感じてもらいたい。)
各都市の専門家である都市デザイナーがそれぞれの都市についての歴史や都市デザインを紹介し、学生数人を単位としてさらに都市研究を行い成果を発表する形式。ピーター・ロウが的確に実体験やジョークを交えながら議論をリードする人気授業である。余談になるが、フルブライトの大先輩であり推薦状を書いてくださった元港区町の原田敬美先生の恩師でもあるピーター・ロウから直々に薫陶を受けられることは感慨深い。

到達目標としては、各都市の成り立ちと都市デザインのバリエーションを習得する。特にボストンのグリーンエメラルドとよばれる緑のネットワークやBig Digと呼ばれる高速道路地下化と緑道整備の一大プロジェクトに対する見識を深めておく。これは自分が日本橋地域でテーマとする首都高速再編の活動にも将来活かすつもりである。また、アーバンデザインの学生やランドスケープの学生とのコラボレーションを通じて、才能ある都市仕掛け人達との繋がりをつくっておきたい。



以上が今期の履修科目。GSDを越えてビジネス・スクールやケネディ政策大学院の授業もショッピングを行ったが履修は来学期に見送り。最初の学期は環境に慣れることと、そもそも不動産の知識を英語で入れることを集中すべきと考え、アドバイザーであるBing Wangとも意見が一致したために、この判断がベストと考えた。

たかが4授業!と思われるかもしれないが、上記に記した通り内容の濃い授業に加えて大量の課題があり、かつ自分の語学力のなさを思い知らされるため、全く寝る間がない。週末は必死こいて未消化分を潰す。しかしネイティブにとっても分野横断的な課題が多いので、必然的にお互いを助け合うためにもスタディグループが形成される。このスタディグループの仲間が掛け替えのない財産でもあるのだ。

ハードな課題をともに戦うスタディグループ、つかの間のビア&オイスター



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